日本酒ラベルから読み解く情報 

日本酒ラベル解説

概要

日本酒を選ぶ時にどうやって選んでいいかわからない。とよく質問を受けます。今回はラベルの見方を解説したいと思います。酒屋さんにずらりと並んだ日本酒を見て「違いがわからない」「自分好みはどれだろう」「どんな味かな」などと迷いますよね。

実は私も飲んでみるまでわからないのですよ。「なんじゃそれ」と言われるかもしれませんね。

日本酒の味は複雑です。酸や香りやキレのバランスで味が決まります。つまり「純米吟醸だからこういう味」という方程式では決まらないのが現実です。それでも用語の意味を理解すれば味のヒントにはなります。ヒントを駆使して味を推理したり、用途に合わせて選ぶポイントに活用したりできます。

今回の記事では「用語の意味を知る」 「読み取った情報をどう活かすか」の2点に注視して解説します。

1.銘柄名

有名銘柄や知っている銘柄は手に取りやすいですよね。最近では面白い名前の日本酒も増えてきました。「作(ザク)」「彗(シャア)」など一部のマニアが喜ぶ銘柄もあります。

「山本」「遠藤」など苗字がついた銘柄はプレゼントに良いかもしれません。やたら長い名前や読めないような銘柄もあります。いわゆるジャケ買いも楽しみ方の一つです。

注意しなければいけないのが銘柄だけで選ぶことです。前に飲んで気に入ったからと選んでもなんか違うということもあります。蔵によってですが、味の方針が全スペックでほぼ同じという蔵もあればスペックが違うと味がまったく変わる蔵もあるからです。

最近の傾向として季節酒や限定酒を小ロットで次々と販売する蔵が増えています。例えば夏にはスッキリ飲みやすい「夏限定酒」秋にはコクのある「ひやおろし」など。「夏限定酒」をたまたま飲んで美味しいと思い「ひやおろし」を同じ銘柄だからと飲んでみると「思ってたのと違う」なんてこともあります。そういうことがないように気に入った日本酒のラベルを写真に撮っている人もいますね。

2.特定名称

これはお酒のランクですね。純米とか吟醸などです。ランクといっても純米大吟醸が一番美味いという話ではないです。あくまで酒税法上の分類です。

一定以上の基準を満たした日本酒と思ってください。詳しい説明は省きますが、米だけの純米系と醸造アルコールを少量添加した本醸造系に分けられます。さらに精米歩合という米の削り具合で分けられます。

特定名称は平成2年から使われるようになった区分です。それまでは「一級酒」「二級酒」などと区分されていました。何をもって一級なのかがわかりにくい為、現在の特定名称に改定されました。

わかりやすくなったかは謎ですがどういう造りの日本酒かはわかるようになりました。特定名称の日本酒であれば極端に不味いという酒はほとんどなくなりました。

また特定名称には規格があるので純米大吟醸クラスの日本酒でも等級外の米を使っていると普通酒になったり、税金を抑えて低価格にする為にあえて醸造アルコールを多めに添加して普通酒規格で出す日本酒などもあります。

3.注意事項

「生」「要冷蔵」などと書かれている場合があります。その他にも特定名称の部分に「原酒」「新酒」「生酒」などと書かれている場合もあります。

「生酒」というのは火入れ殺菌をしていない日本酒という意味です。日本酒は通常、品質劣化を防ぐ為に50~60℃で火入れという作業を行います。これをあえて行わない作ったそのままの味という日本酒です。生酒を購入した時は持ち帰り時間も気にしてください。冬場の外気温くらいなら大丈夫ですが、真夏の車内に何時間も放置など最悪です。腐って飲めなくなるという訳ではありませんが蔵元の意図する味からは変化してしまいます。外出先で持ち帰りに何時間もかかる場合は火入れの日本酒が無難です。また宅配便などで送る場合も生酒の時はクール便にしましょう。

よく生酒の方が火入れ酒より良い酒だと思っている方がいます。どちらが良いということではなく特徴の違いで好みの問題です。大雑把な表現ですが、刺身と焼き魚みたいな感じです。

4.原材料

純米は「米、米麴」本醸造系は「米、米麹、醸造アルコール」と書いてあります。普通酒には糖類や酸味料などと書かれている場合もあります。純米系が良い酒で本醸造系は悪い酒との認識もよく聞きます。

味の好みや個人の趣向として本醸造系はダメは理解できます。ただ本醸造系と普通酒を混同されている方もいます。

同じアルコール添加でも目的が違います。普通酒は主に増量を目的に添加しているのに対して本醸造系では味の向上の為に少量を添加しています。

ここを理解して酒選びをした方がより楽しめると思います。

5.原料米

山田錦」「雄町」など酒造好適米がかいてある場合があります。

最近では「ササニシキ」「コシヒカリ」など食用米で造る日本酒も出てきました。

特に書いてない場合はブレンドがほとんどです。

同じ銘柄の米違いを飲み比べするのも楽しいかもしれません。

ひと昔前はどの蔵でも「山田錦」を使っていましたが、最近では地元の米を使って地元で醸す酒がトレンドになりつつあります。

山田錦は有名ですが東北など寒いところでは育ちにくいそうです。その為寒い土地向けに開発されたのが「美山錦」です。寒冷地の蔵では美山錦が使われることが多いです。

他にも山陰地方は「五百万石」が多く栽培されていますし、千葉には「総の舞」という酒米があります。

個々の酒米の特徴はあるものの日本酒の味は米だけでは決まらずその他の要因も大きく影響します。

「この米だからこういう味」という選び方もありますが「寒冷地の蔵であえて山田錦なのか」とか「地元の米で醸したのか」などの選び方も楽しめます。

6.精米歩合

精米歩合とは精米(玄米から表層部を削る)して米の残った割合を示しています。

精米歩合70%であれば30%削って残りが70%という意味です。

精米歩合60%以下が吟醸、50%以下が大吟醸です。

一般的には多く削った方が雑味がなくなり香りが高くなると言われています。

多く削る=良い酒 ではないので注意してください。

日本酒の魅力は様々なのでコクや深みのある日本酒もまた良い酒です。

大吟醸など多く削れば(磨けば)削るほど歩留まりが悪くなり材料費はかさみます。

ゆえに値段も高くなります。

最近では精米技術が進化しており、昔ほど削らなくても雑味のない酒ができるようになってきました。あえて精米歩合90%なんて日本酒もあります。

また「扁平精米」という技術もあります。

米は楕円形をしているので通常精米では縦長の部分を余計に削ることになります。

(写真参照。通常精米では楕円の米が球のようになっていく)

扁平精米では楕円のまま小さく削るためロスが少なくなり1~2割お得になるそうです。

(扁平精米60%=通常精米50%の効果) 扁平精米の吟醸は通常精米の大吟醸クラスになるそうです。

単純なイメージとしては

精米歩合数値が小さい=香りが高い  精米歩合数値が多い=コクがある

といえますがこれも他の要因に左右されるのでヒントの一つくらいで考えてください。

7.使用酵母

有名なのは新政の6号酵母です。現存する最古の酵母と言われ「NO.6]などと銘柄に使ったりしています。

○○号などと数字が表記されていれば日本醸造協会が管理している酵母です。

それぞれの特徴はありますが何度も言うように他の要素も絡んでくるので酵母だけでは味の判定はつきません。

すごく漠然としたイメージでは数字が若いほうがクラッシックな造りに。数字が大きいと現代的な造りにという感じでしょうか。

一般的には表示していないことも多いです。

珍しいところでは「花酵母」「ワイン酵母」「バナナ酵母」など特殊な場合は表示されています。

こういう表記だと面白そうなので選ぶ動機にはなります。

8.アルコール度数

通常は15~16度が一般的です。

なので17度以上なら原酒の可能性が高いです。

原酒とは割水していない日本酒です。

一般的な日本酒は17~19度ほどに仕込んで飲みやすくするために加水して味を整えます。

原酒と表示してある日本酒は加水処理していない日本酒です。硬派なイメージですね。

反対に14度以下の表示なら飲みやすい日本酒なのかなとイメージできます。

蔵によってはあえて原酒で14度に仕上げる日本酒もあります。

アルコール度数は特にこだわる必要はありませんが、上記のような度数を見つけたら一つのヒントにはなります。

7.日本酒度

一般的には+表示が辛口、-表示が甘口となってます。+7とか-5などと表示。

ここは個人的には気にして欲しくありません。

というのも、一時期あまりに消費者が辛口辛口と言いすぎて現在出回っているほとんどの日本酒が辛口です。体感ですが7~8割辛口でしょうか。

蔵もそれを意識してか最近では日本酒度を表示している日本酒はほとんどありません。

そもそも日本酒度というのは比重です。その酒が水に対して浮くか沈むかで測ります。

糖分が多いと比重は重くなり沈みます。ガムシロップやカシスオレンジをイメージしていただければ沈んでいるのがわかると思います。

つまり水にたいして沈む酒は甘口、浮く酒を辛口。どれだけ沈んだか浮いたかを数値で表しています。

他の項目でも散々言っているように日本酒度だけでは味の判断は出来ず他の要因も絡んできます。+5の日本酒でもフルーティーな香りにより甘く感じる場合もあります。

日本酒度というのは単なる比重だと覚えてください。

もし表示があっても+15とか-10とか二桁以上の表示のみ辛口かな甘口かなと意識してそれ以外はあまり気にしないほうがミスリードは防げると思います。

10.酸度 11.アミノ酸度

こちらも表示していない場合が多いです。

酒の味に酸味や旨味をもたらす有機酸の数値が酸度。

酒のコクや旨味のもとになるアミノ酸の数値がアミノ酸度。

ようするに日本酒度と酸度、アミノ酸度のバランスで味が決まるそうです。

なんだか意味不明ですよね。私もよくわからないです。

ほぼ表示してないので、そういう事なのねくらいでいいと思います。

12.醸造年 15.製造年月

醸造年と製造年月は混同しやすいので一緒に解説します。

醸造年=絞られた年

製造年月=瓶詰された年月

醸造年はBY○○年(ブリュワリーイヤー)と表記される場合もあります。

こちらは熟成酒好きは必ずチェックすると思います。

ワインのように「○年は米の当たり年」なんてのはありませんが、何年熟成かは気になりますね。

日本酒の醸造年度はちょっと特殊で7月1日~6月30日です。

例えば「令和4年BY」は令和4年7月1日~令和5年6月30日の間に絞られた酒ということです。

ちなみに醸造年はラベルに表示義務はありませんが、製造年月は表示義務があります。

表示する義務のないBYをあえて表示してるということは「この酒は〇年熟成してますよ」という蔵元のメッセージかもしれません。

酒には賞味期限はありませんので製造年月をみてなるべく新しいのを選ぶ必要もありません。

13.義務付けられた注意表示 14.会社所在地 16.容量

特に解説する必要はないと思います。

会社所在地つまりどこの酒かは最後の一押しに使えます。

酒選びに迷ったら地元やゆかりの土地の日本酒を選べば親近感もわきますね。

ちなみに全ての都道府県に酒蔵はあります。沖縄や鹿児島にも。

現在では全国的に日本酒の品質は向上されており地域差もなくなってきております。

日本酒のイメージがない都道府県の酒をあえて選ぶのも楽しみ方の一つです。

まとめ

長々とした解説にお付き合いいただきありがとうございました。

POINT
  • ひとつの要素だけで日本酒の味は決まらない。
  • 用語の意味を知って日本酒選びのヒントにする。
  • 情報やヒントから味を想像する。
  • ラベルの情報や用語の意味から蔵元のメッセージを読む。
  • 自分の気になる部分を基準に酒選びができる。

日本酒は用語が多く難しいイメージかもしれません。

ラベルの情報をすべて理解したとしても最終的に飲んでみるまで正確な味はわからないのが現実です。

正確にわかるよという達人の方もいらっしゃるかもしれませんが私はわかりません。

なんとなくのイメージはわかりますが、それは経験則からくるものでラベルの情報だけではわかりません。

飲んだ後にラベルの情報を元にこの味はこれが理由かと思うくらいです。

用語を理解するということは違いがわかるようになるという感じでしょうか。

加えて言うなら最近のトレンドとして最低限の情報しか載せない傾向にあります。

それは消費者に先入観で飲んで欲しくないという蔵元さんが増えてきたからです。

以前、ある蔵元さんに「なんでこの米を使ったのか?」「なんで純米吟醸なのか?」などと色々と質問したことがありました。

すると「この味にする為に追及していったらこの米で純米吟醸だった」との答えでした。

用語や製法にこだわっていた私は衝撃でした。

蔵元さんからすれば目指す味がゴールで米や製法は手段の一つだと。この味をめざしていたらたまたま米はこれで純米で吟醸だったと。味が先にあったようです。

その言葉を聞いてから私はラベルの情報にこだわらなくなりました。

蔵によっては同じ銘柄のラインナップとして「純米」「純米吟醸」「純米大吟醸」などとそろえている場合もあります。

また同じ銘柄、同じ製法で米違いのシリーズを出している蔵もあります。

そういう場合はラベル情報が役立ちます。

ようするに肩肘はらずに気軽に日本酒選びをするのがよろしいかと。

この記事がみなさまの日本酒選びのヒントになれたのであれば嬉しい限りです。

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