千葉県成田市に本店を構える鍋店株式会社のブランド「不動」
全国的にはまだ無名だが千葉の日本酒好きには銘酒として認知されてきている。
数ある不動シリーズの中から今回ご紹介するのは年一回限定のブラックラベルである。
黒下地に黒文字でまったく目立たないどころか、様々な日本酒が並ぶ酒屋の棚にあればその存在すら消えてしまうのではないかと危惧するラベルだ。
この酒に出会ったのは本当に偶然だ。別の酒を探しに酒屋回りをしている時にふと見かけた。不動自体は飲んだことがあり良いイメージだったので見かけないラベルだったが試しに購入して。完全についで買いだ。
ついで買いなものだから購入から一か月程忘れていた。思い出した時もさほどの期待もせず飲んでみたら驚いた。
飲み口の滑らかさの後にしっかりとしたキレ。主張しすぎない程よい香りとコク。絶妙にバランスが調和している。
後日、件の酒屋を訪れた時は完売しており他の酒屋でも見かけることなくもう一本買っておけばよかったと後悔していた。
暫くして不動の蔵を訪れる機会があった。
とても親切に案内してくださり色々なお話も伺えた。
直売所で酒を購入する時にふとブラックラベルを思い出し聞いてみた。
どうも年一回の限定品の為、今は在庫がないとのこと。
「飲まれたのことありますか?」と聞かれたので上記のような感想を熱意を込めて伝えた。
すると「それは良かった。」と喜んでくれブラックラベルの謎を教えてくれた。
ブラックラベルは年一回だけ醸造責任者が「俺はこの味が旨いと思う」という味を目指して蔵の酒をブレンドして造ったものらしい。味を追求するために採算度外視で超高級酒でも惜しげもなくブレンドするらしい。そのためスペックは非公開になる。逆に言えば様々な原料、精米歩合、酵母、製法をブレンドしているため表示のしようがないとのこと。
ここからは私の個人的な考察になるのだが、これはファン感謝イベントなのではないか?
高級酒を惜しげもなくブレンドしている上に味も申し分ない。その割には一升瓶で2500円前後と良心的な価格に抑えている。
ラベルも黒下地に黒文字とあえて目立たないようにしており、わかる人や知っている人だけが楽しんでくれれば良いとの意図を感じる。
絶妙なバランスの味も「良い酒とは?」という正解のない問いに対してのひとつ解ともとれる。
私が良い酒とは?と語るのはおこがましいが、人それぞれの解があると思う。
原材料にこだわった究極の素材の酒。雄町だ山田錦だ、どこの生産地だ。水、酵母、蔵の微生物たち。素材の良さを活かしきる酒。
生酒や原酒、精米など創意工夫やチャレンジして生まれる酒。フルーティーな香りで若者や海外で受ける日本酒も良い酒だ。
純米や生酛造りにこだわり日本酒の王道を目指す酒。時代や合理性にとらわれず愚直に手間を惜しまず本来こうあるべきを目指す酒も素晴らしい。
革新的な技術や機材、テクノロジーを導入していままでの常識をひっくり返すような新しい時代の酒もどんどん誕生している。
かけがえのない友と飲み交わすのならばコンビニのカップ酒もまた良い酒なのかもしれない。
そんな中で究極のバランスと調和も良い酒だ。
例えば香り、キレ、コク、飲み口、滑らかさ、余韻などを六角形のグラフで表したときに綺麗な正六角形になるような絶妙な味わいは中々できるものではない。そしてその調和がなんとも心地よいのは見事である。
日本酒ファン全員に好まれたいではなく、気に入ったらどうぞという謙虚さの中に秘めた信念すら感じる。
ここまで書いて残念だが中々お目にかかれない酒なのだ。
だがそれもこの酒の良さかもしれない。
もしどこかのお店で見かけた時はぜひ飲んでみていただきたい。
そして自分の中の良い酒を探していただければ幸いである。